阪急電鉄宝塚線池田駅のすぐ前、国道176号線沿いに「蕎麦見世 のあみ」がある。

 国道176号線側には扉が一つあるだけで、うっかりすると通り過ぎてしまうが、反対側に回ると大きな看板とのれんが下がっていて、ガラス戸越しに中の様子が伺える。
どちらが正面入り口なのか聞くと、6割くらいのお客さんがこちらから入店するという。

 1階には厨房に面したカウンター席、二人掛けのテーブルが2卓、2階にはテーブル2卓と、奥に畳敷きの小上りがあり、掘りごたつ式の六人掛けのテーブルが2卓ある。 北摂マダムが、おしゃべりを楽しみながら蕎麦を楽しむのに利用しているようだ。

 この「蕎麦見世 のあみ」では“暮坪かぶ”という珍しいかぶを薬味につかった「くれつぼおろし蕎麦」を出している。暮坪かぶは、岩手県遠野市で古くから栽培され、地元ではほとんど漬物として食されてきた、全国的には馴染みの薄い食材であった。

 ところが、グルメ漫画「美味しんぼ」で取り上げられるや“究極の薬味”として全国に知られるようになった。
「蕎麦見世 のあみ」の主人野網さんも、その魅力に取り付かれたひとりだ。


 ちょうど新そばと同じ時期に旬を迎える暮坪かぶは、形は小ぶりな大根のようだが、れっきとした「かぶ」で、皮のまま擦り下ろすと、辛みは大根のおよそ14倍、しかも大根のような水っぽさはない。


 「くれつぼおろし蕎麦」は器に盛られて供される。好みでぶっかけにしても良いという心遣いだ。やや粗めのおろしから刺激的な香気が漂う。蕎麦に乗せ口に含むと、暮坪かぶの深い辛みと何とも言えないさわやかな香気が鼻に抜けるとともに、こしが強く噛みごたえのある蕎麦の香りが口いっぱいに広がる。蕎麦の旨みをより一層ひきたてている。


 横浜にある手打ちそば・うどん教室で一茶庵の片倉英統氏の薫陶を受けた野網さんは、8年前、今の場所に「蕎麦見世 のあみ」を開業した。
“店”を“見世”と表示しているのは色々あるそばの魅力をお客さんに知ってもらいたいという野網さんの強い気持ちの表れだ。

 「蕎麦見世 のあみ」の蕎麦は毎日、朝と午後営業に合わせて打つ。
そば粉は北海道、福井、長野のものを時期によって使い分けている。つゆには2~3年ものの本枯節を使い、みりんに拘っているというとおり、こくがありながら蕎麦にピッタリ寄り添うさらりとした仕上がりだ。

 左党にはそば屋での昼酒はこたえられないが、「蕎麦見世 のあみ」には主人が自ら吟味した酒が揃っている。
中でも岩手の名酒「月の輪」がオンリストされているのは嬉しい限りだ。

 駿河湾産生しらすやしめ鯖など酒好きを刺激する酒肴も豊富だ。燗酒は温度を測り、冷めないように湯を張った陶器に入れて供される。
「白海老のかき揚げ」で「月の輪」をいただいたが、至福のひとときだった。


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 「蕎麦見世 のあみ」主人の野網裕之さんは、以前は焼き鳥屋で仕事をしていたが、20代の頃から全国のそば屋を食べ歩くほどのそば好きが高じてこの道に入った。
 研究熱心で、サクラの葉を練り込んだものや、カボス切そばなど変りそばにも挑戦している。てんぷらやかき揚げなど揚げ物に並々ならぬ自信と気概を感じた。